活用事例

店じまいは終わりではなくはじまり。地元文化の新たな発信拠点への生まれ変わり。

2020.05.25

わが家を手放す、家業を畳む、そんな場面に直面したとき

「この家を処分するには、思い出がありすぎて…」

「まだこの家具や荷物を残しておきたいんだけど…」

と場所への思い入れが深い故にそのままにしてしまうことがよくあります。

これがいわゆる「流通されていない状態の空き家」を生み出してしまうきっかけなのです。

今回は、家をそのままにしておかなかった所有者さんの事例をご紹介させていただきます。

昭和漫画家の聖地・トキワ荘という土壌

東京都豊島区南長崎。池袋から西武池袋線で一駅のこの場所は、降りると大都会から一変して暖かい古き良き下町の匂いがします。ここは、現代のマンガ・アニメ文化を築いた昭和の漫画家たち、手塚治虫や赤塚不二夫、石ノ森章太郎、藤子不二雄等が共同生活を送っていた伝説のアパート「トキワ荘」があった街。

トキワ荘は残念ながら昭和60年に建物の老朽化の為、建て壊しされてしまいましたが、面していたトキワ荘通りには、当時の漫画家たちが足繁く通っていたラーメン屋さん等があります。

現在の豊島区長の長年の夢でもあったトキワ荘の再現、ミュージアムを通した文化の発信を実現するべく、2018年『トキワ荘マンガミュージアム』プロジェクトが始動しました。ふるさと納税を通した寄付金は約4億円(令和2年4月17日現在)にもおよび、地元の方だけでなく、全国の多くの方の期待が集まりました。2020年にオープンを予定しています。

小出幹雄さんは、この再現ミュージアムの出来る公園の目の前で、老舗時計店「スエヒロ堂」を構える店主でいらっしゃいます。ご自身も、知る人ぞ知るトキワ荘研究家でもあります。

時計店の外観

「この街にミュージアムが来るのに、地元としてこのままでもいいのか」

小出さんは悩まれました。

近年、駅前への店の集中もあり、小出さんの店のある商店街は閑散としていました。

人通りが少ない道

このままではミュージアムに遊びに来てくれる人たちの受け皿になる場所がない、代々住み続けてきたわが街が、昔の写真のように色褪せて見えて欲しくない。そのなかで小出さんは一つの選択をしました。

「よし、うちの店を一度畳んで、空いた事務所で何ができるか考えてみよう」

夏の夜の作戦会議

2019年初夏、日頃からトキワ荘関連で親交が深かったデジタルハリウッド大学院の荻野教授に話したところ、「そういえば、コマワリキッチンの石井ちゃん、そういう話得意だったよね。一緒に話を聞いてみようよ」と。

同じ通り沿いの空き店舗を改修して、シェアキッチン「コマワリキッチン」を運営している弊社・石井へ話が舞い込んできました。地元の自治会館での夜間の地域会の際、荻野教授と小出さんにご相談をいただきました。

小出さんのお気持ち、よく分かりました。早速企画案を練ってみますね。ちなみにどんな場所にしたいなというイメージがありますか?

何となく、僕の秘蔵の収集グッズとかも販売はできないけど、展示とかしたいなあ

ミュージアムはお土産の販売がないらしいね。何か面白いグッズとか販売できたら面白いかな

そうなると、せっかくだからトキワ荘の先生たちの作品が販売できるといいですね

ぼくの親しくさせていただいている古本販売のテイツーさんという方がいるよ。お声がけしてみようか

是非是非!

こうして、蒸し暑い夏の夜、いい歳した大人たちの秘密の作戦会議が始まったのです。

数日後、石井がコンセプト案を持参し、再度作戦会議。

今回、お店を温故知新の類語でもある『継往開来』という四字熟語をコンセプトしたいと思います。これは、古きをもって、新しいことを切り拓くという意味。昭和のマンガの聖地から、令和につなげる役割をこのお店に持たせたいですね

継往開來のイメージ図

そうそう、ミュージアムの役割は見て知ることだけだけど、それに加えて新しい世代へ引き継ぐ何かが欲しいよね

ブックカフェという形に加えて、荻野教授が取り組んでいらっしゃるトキワ荘大学のイベントも定期開催したいですね

観光客だけでなく、地元住民がジブンゴトとして、街の資産である「トキワ荘」という文化を感じてもらえるようなそんなプログラムを一緒に考えていきました。

また後日、荻野教授から株式会社テイツーの藤原社長をご紹介いただきました。

弊社は、岡山県に本社があるんですが、日本のマンガ・アニメ文化をもって地域貢献をしていきたい考えなんです。たとえばですが、鳥取県の山奥にあった温泉旅館とタッグを組んで、マンガを約20万冊読み放題の場を提供しました

流石、すごい蔵書の収集力ですね

トキワ荘の漫画家さんの専門蔵書はおそらくミュージアムにもあると思いますが、その作品を購入して自宅に持ち帰ることができたらいいですね

是非そういうブックカフェにしていきましょう!

トキワ荘と実家の思い出

生まれた時からずっと南長崎で過ごしてきた小出さん。トキワ荘研究家としてもご活躍されていらっしゃいますので、その蓄積された荷物を整理することは並大抵なことではありませんでした。

物が溢れかえる部屋の中

古物商であるテイツーさんに「あの雪崩が起きそうな山のなかに、既に絶版になっているような貴重な資料が沢山ある」と唸らせる(色んな意味で)ほどの収集物、そして本職である時計販売・修理の資材も蓄積されていました。

小出さん、そろそろデザインや契約内容もかたまってきましたので、お片付けを始めていただけますか?必要であればお手伝いに伺いますので!

そ、そうですよね。頑張ります

本職の時計販売・修理の業務、トキワ荘研究家として多忙な日々を送っていらっしゃる上に、年末年始の時期が重なり、小出さんの片付けはなかなか進みませんでした。片付け業者に頼むことは、小出さんは拒否され、一つ一つ思い出を振り返りながら丁寧に仕分けていかれました。

ほかの人たちにはガラクタのように見えるかもしれないけれど、ぼくにとっては思い出も含めて宝物なんだよね

お気持ち良く分かります

だから、時間も普通の人の倍かかっちゃうかも

いえ、トキワ荘マンガミュージアムのオープンに間に合わせなくてはなりませんので、そこはデッドラインを守ってくださいね!

とほほ…

小出さんの事務所が綺麗に片付いたのは、約2か月後のことでした。

物が無くなった部屋

空っぽになった部屋を見回しながら、引き渡しの日、小出さんはぽつりと言いました。

ああ、やっと片付いた。事務所も空っぽになると 感慨深いものがあるなあ

本当にお疲れ様でした。ありがとうございます

時計屋としては父の代からこの場所で営んできたんだ。それを畳むのかぁって

小出さん、事務所は確かにお片付けいただきましたが、思い出までは畳むことはないと思います。是非これからも、多くの人にその記憶を伝えていってください

そうだね。それにぼくが生涯の研究として活動しているトキワ荘研究について、より多くの人に発信できる拠点にここが生まれ変わるんだものね

そうです!一緒にもっとこの場所を盛り上げていきましょう

地域の魅力を最大限に押し出した拠点づくりへ

さて、小出さんがご利用になられた弊社「空き家活用サポート(アキサポ)」について、ご説明いたします。

「アキサポ」とは、空き家や使っていないお家を借り受け、リフォームした後に一定期間転貸するサービス。物件の周辺環境や立地条件など調査を行った上で、最適な利活用プランをご提案します。リフォーム費用は、所有者負担はゼロ、アキサポが負担します。賃借人や利用者の募集も一括サポートし、入居後、所有者は賃貸料の一部を家賃収入として得ることができます。

今回、小出さんはご自身の事務所を畳み、地域の魅力である「トキワ荘」を最大限に発信できる場所をご希望されました。その希望を最大限に活かせる場所として、ブックカフェを提唱。さらにトキワ荘文化の研究をされている荻野教授のご紹介もあり、テイツーさんにご利用いただくことになりました。

さらに、今回は豊島区立「トキワ荘マンガミュージアム」の目の前の立地ということもあり、豊島区の各課から多大なご協力をいただくことになりました。住宅課による「地域貢献型空き家利活用事業」としてリフォーム工事費の一部を補助いただき、公園緑地課には公園と敷地の間のフェンスを撤去、スロープの設置をしていただきました。

スロープの設置

官民が一丸となって、地域の魅力を最大に押し出したブックカフェ「ふるいちトキワ荘通り店」は2020年3月13日にオープン。

トキワ荘の漫画家たちがかつて集ったカフェ「EDEN」になぞらえ、室内では珈琲を飲みながらマンガを読む事ができ、その場で本を購入することができます。

店内の様子

さらに、トキワ荘のお土産も合わせて販売。小出さんが手がけた商品もあり、トキワ荘愛を存分に味わうことができる施設になりました。イベントとして荻野教授による「トキワ荘文化大学」の開講も予定しています。

残念ながら、新型コロナウィルス感染拡大防止のため、トキワ荘マンガミュージアムはオープンを順延していますが、オープンした暁には、小出さんの一番望んでいた、地元にも訪れる観光客にも愛される拠点になることでしょう。

小出さんが店内を紹介している

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